コラム

模倣すべきは「生涯現役社会」

伊能忠敬が全国測量の旅に出たのは五十も半ばを過ぎてからで、現代で言えば定年退職後の事業になる。驚くべきことは、年齢も然りだが、現在の日本地図とほとんど違いが無いという事。片や航空写真から、最新のコンピューターを駆使して出来上がったもの。片や手書きでしかも、何年もかけて人の足で測ったもの。全く違う国の地形になる位の差が出てもおかしくはないと思うが、実際には寸分の狂いも無い。驚天動地とはこの事だろう。

さて、六十五歳までの生産年齢はここ百年の近代社会の産物で、江戸時代は、生涯現役社会で老齢者が大いに活躍した時代である。例えば「石門心学」の石田梅岩、「富嶽三十六景」の葛飾北斎、陽明学で著名な頼山陽など、主な作品は全て高齢になってからのものである。そして、極めつけは、おそらく良寛和尚だろう。三十五歳の貞心尼と恋に落ち、有名な「裏を見せ表を見せて散るもみじ」と詠んだのは、良寛六十九歳のときである。