続「日本文化論」
還暦に間近い女性のお客様が150坪程の敷地の半分をお隣りに譲られて、その資金でこじんまりとした平家の日本家屋を建てられた。一人住まいということもあり、縦横無尽な設計と瀟洒な佇まいは実に魅惑的。板張りの引き戸の玄関を入ると、勝手場まで続く土間敷きで、吹き抜けの天井には柿渋色の太い梁と桁が目を引く。上り框から廊下にあがると、広くとった和室には、四尺(120㎝)程の奥行をもつ広縁がつながり、そこから風情ある庭が望める。随所に見てとれる超絶技巧といえる職人芸は、この家屋を大変感慨深いものにしている。
時代は成長、発展のプラスから、成熟、安定のマイナスへ転じてゆくが、マイナスは決して非ではないことを、この建て替え事案は教えてくれる。例えば、村田珠光が四畳半の小間を登場させ、武野紹鴎が書院造の意匠を草庵風に変容し、千利休が究極の一畳半の小間の茶道を実現したように、それは日本人しか成し得ない「引き算の美学」なのである。
